カルチャー心酔雑記

モラトリアムが延長戦に突入した大学生が、カルチャーとイチャイチャした記録です。

個人的に良かったと思う2014年公開の映画10選

2014年は観た映画の記録をなんとなくですがつけていたので、特によかったなあと思うものをこの場で挙げてみたいと思います。感想はすべて独断と偏見による私見。ネタバレは極力控えましたが、脳内ダダ漏れで述べたいことをひたすら述べております。

掲載の順番は、実際に観た順番となります。以下すべて、2014年内に国内で公開となった作品です。劇場公開時に観たものもあれば、名画座で観たものもあります。洋画と邦画混在しております。

 

ランキング形式にしようかとも思ったのですが、順位をつける意義がないと感じたので、列挙するに留めてます。思いのほか長くなってしまった……。

 

ニシノユキヒコの恋と冒険


映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』予告編 - YouTube

 

超絶モテ男ニシノユキヒコがあらゆるタイプの美女とひたすらいちゃいちゃするお話。竹野内豊演じるニシノくんの半生と、彼を取り巻く女性たちの悲喜こもごもを描いた作品です。

このニシノユキヒコ、まあモテるモテる。女性からモテることに関して天才的なのですが、なぜか最後にはいつもフラれてしまう。しかし、ニシノくんとの出会いを経て一皮むけていく女性たちを見ていると、彼のモテがうわべだけのものではない、「真に女性を喜ばせ、満足させる」天性の才であることを感じます。

監督の井口奈己さんは『人のセックスを笑うな』が代表作ですが、あちらが冬の映画だとしたらこちらは夏の映画。描かれている季節はまったく違っても、少女漫画のようなおしゃれでハイカラな雰囲気は両者に共通しています。

ほんとうに美男美女しか出てこないので、目の保養としてだけでも十分観る価値あるのではと思います。

 

愛の渦


映画『愛の渦』予告編 - YouTube

2014年最も話題をさらった邦画のひとつかもしれません。本編123分中で着衣シーンはわずか18分という本作。乱交パーティーが行われる一室での一夜を描いたお話です。テラスハウスR18版って感じで、これは本当におもしろかった。エロのセンセーショナルさが注目されがちですが、本質的にはコミュニケーションを描いた作品であると感じます。むしろここまでコミュにケ―ションに焦点を当てた作品ってなかなかないのではと思うくらい。

監督の三浦大輔さんは女性に観てほしいとおっしゃっているそうで、確かに女の子数人で連れ立ってきゃっきゃしながらこれを観に行くとか最高だと思います。(ちなみに私は平日の真っ昼間に新宿地下の劇場で女友達と2人で観ました。)

この作品含め、昨年は池松壮亮くんの濡れ場をスクリーンで3回は観た気がするのですが、2014年の彼はちょっと脱ぎ過ぎじゃないですかね。

 

そこのみにて光り輝く


そこのみにて光輝く (The Light Shines Only There) 2014 予告編 ...

鬱屈とする鬱映画。しかし観てよかったなあと思える鬱映画でした。芸術性の高さは近年の邦画の中でも突出しているのでは。

主要人物3人の演技がとても良いのですが、個人的には主人公の恋人の弟を演じていた菅田将暉くんが素晴らしいと思った。「鬱屈とした田舎に暮らす血縁に翻弄される若者」という青山真治監督『共喰い』の主人公と非常に似た役柄を演じているのですが、そのキャラが180度違う。あちらが思慮深く寡黙な男子高校生だとしたら、こちらはおつむが弱くて粗暴だけど愛嬌のある無邪気な少年と行った感じ。

そんな菅田くん、現在公開中の『海月姫』で、姫であり王子であり魔法使いという少女漫画の男性キャラでも稀に見る属性を持った女装男子、蔵之介を演じているというのだから、これはもう観に行かない理由がない…!

 

チョコレートドーナツ


『チョコレートドーナツ』予告編 - YouTube

これについては、別のエントリで詳しく言及しています。

『チョコレートドーナツ』について① ―人権についての感想― - カルチャー心酔雑記

『チョコレートドーナツ』について②―同性愛と疑似家族― - カルチャー心酔雑記

昨年観たものの中で最も泣いた映画にして、みっともないくらいに泣いてしまった映画。私の涙腺が特別弱いわけではなくて、観に行った映画館でティッシュの貸し出しまでやっているくらいだった。思うところはいろいろあったのですが、フィクションが現実に与える影響は計り知れない、と改めて感じました。

ちなみに、疑似家族が描かれるテクストにおいて、血縁の欠如を補うためによく使われる描写として「みんなで食卓を囲む」というものが挙げられるらしい。その意味でも、「チョコレートドーナツ」というタイトルは非常に示唆的だなあと。

 

シンプル・シモン


映画『シンプル・シモン』予告編 - YouTube

本国では2011年に公開されているスウェーデン映画。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のトリアー監督の影響か、スウェーデン映画って「陰鬱こそが美しい」みたいなイメージだったのですが、それが払拭されるポップでユーモラスな作品でした。

主人公のシモンはアスペルガー症候群。数字と物理については天才的な能力を発揮する彼ですが、人の気持ちを汲み取る事が一切できないため、周囲からはなかなか理解してもらえない。そんな彼が唯一の理解者である兄の恋人探しをするうちにある女性と出会って……というラブコメディーです。

シモンは「他者に共感する」ということがまったくできない。それゆえ、「恋愛感情ってそもそも何なのだろう?」「人の気持ちを考えるって結局どういうこと?」といった他者と関わる上での根本的な問いが、作中では強烈に浮き彫りになります。

これを考えるだけでも素敵な映画体験だと思うのですが、それ以上に素晴らしいと感じたのは、シモンの目線で見た世界の描かれ方。一般的にはなかなか理解されないアスペルガー症候群の当事者から見た世界が、北欧のおしゃれなインテリアや雑貨を効果的に使うことで、非常にポップでカラフルに描写されています。その試みとセンスに脱帽である。

 

グランド・ブタペスト・ホテル


映画『グランド・ブダペスト・ホテル』特報 - YouTube

ウェス・アンダーソン監督の最新作。これを観た直後、今まで監督の映画をほとんど観たことがなかった私は、激しい後悔とともにレンタルショップに向かい、この人の他の作品を漁りました。それくらい、本当におもしろかった。「なんだこれは!」と思ってしまった。

 3つの時代を飛び越えて描かれるこのお話は、遺産相続に巻き込まれた一流ホテルのコンシェルジュと彼を慕うベルボーイがヨーロッパをまたいで繰り広げる逃走劇がストーリーの根幹となっています。その逃走劇を眺めているだけでもはらはらして物語に引き込まれてしまうのですが、随所に観られる登場人物たちのやりとりが本当におもしろい。感情表現が豊かとは言いがたいシュールでシニカルな人物ばかりなのに、なぜか愛しく思えてしまう。こういった作品を真のエンターテイメントと言うのだろうなあと感じました。

 

her/世界でひとつの彼女


映画『her/世界でひとつの彼女』予告編 - YouTube

2014年1番だと思ったラブストーリー。SFなのにSFとは思えない。それくらいにリアルすぎる。

近未来のロサンゼルス。孤独な主人公セオドアがOSであるAI(人工知能)と恋に落ちるお話です。このAI、声をスカーレット・ヨンハンが演じているのですが、仕事のパートナーとして有能なだけでなく、非常にキュートでチャーミング。実在したらどれだけ魅力的な女性なのだろう…と思ってしまうくらい、素敵な恋人です。

主人公が携帯片手に彼女とデートするシーンがありまして、これがまあなんともロマンチックで、映像にしかできない表現だなあと思ったのですが、相手はAI。傍から見れば、携帯片手ににやにやしている怪しい中年男性にしか見えないわけです。これ、携帯端末を肌身離さず持ち歩き、この情報社会を生きる私たちにとっては、人ごとではないと気付いたとき、なんともぞっとしてしまった。なんという皮肉。セオドアの職業が、家族や恋人への手紙を代筆するライターであるという設定も、うまいなあと感じます。だって彼はプログラムではない、人としての生身の能力で、生計を立て、他者に評価され、生きているのである。どちらが良いとかではなく、設計されたプログラムである彼女との対比が鮮明だなあと。

ちなみに作中、「恋愛は社会的に受容された狂気」というセリフがあったのですが、これちょっと至言すぎるでしょ。

 

トム・アット・ザ・ファーム


映画『トム・アット・ザ・ファーム』特報・ロングバージョン - YouTube

近年、フランス語圏の監督で個人的に最も好きな映画監督であるグザヴィエ・ドラン監督の最新作。この人の作品は、カラフルな音楽と映像が大きな特徴と言われていますが、今回はそれがかなり抑えられているように感じました。

ゲイであることを公表しているドラン監督、その作品もLGBTを扱ったものが多いですが、今回も例に漏れず、同性の恋人を亡くした男性が主人公です。しかもこの主人公トムをドラン監督自身が演じている。描かれているのは、恋人を亡くした主人公とその周囲の人々の「喪失」。こちらもなかなかの鬱映画なのですが、観て良かったなあと思えるタイプの鬱映画だと感じました。

ちなみにドラン監督、私と年齢がほぼ変わらないのですが、その歳でこんな芸術性の高い映画が撮れて演技もできてしかもイケメンって何事。

 

怪しい彼女


映画「怪しい彼女」予告編 - YouTube

2014年に観た唯一の韓国映画。数年前に観て、非常にショッキングだった『トガニ』と同じ監督の作品だとは思えないくらい、軽快なエンターテイメントでした。

70歳の嫌われ者のおばあちゃんが急に50歳若返ってしまうお話。20歳になった彼女は、そうとは知らない孫とバンドを組み、昔あきらめざるを得なかった「歌手になる」という夢を再び追いかけることになります。これだけ聞くとずいぶんと非現実的ですが、それを感じさせないくらいにテンポよく進むストーリーにどんどん引き込まれてしまう。特に、主人公の心理描写が非常に秀逸。若返った彼女、出会った音楽プロデューサーとの間に淡い恋心が芽生えるのですが、自分の正体は70歳のおばあちゃん。それに葛藤する姿が、女優さんの演技のうまさと相まって、とてもリアルです。こんなにも非現実的な設定なのに。

ブコメディーとしてもヒューマンドラマとしてもおもしろいと思いますが、最後は儒教的な価値観に着地させる点はさすが韓国映画だなあと感じました。

 

ショート・ターム


ショート・ターム - 映画予告編 - YouTube

 舞台になるのは、10代の少年少女をケアするシェルター「ショート・ターム」。ここにたどり着くのは、親からの虐待やネグレクトを受け、心に傷を負っている子どもたちばかり。愛情を持って彼らを世話するマネージャーであるグレイスは、強く美しい女性ですが、実は彼女にも誰にも言えない秘密がある。葛藤しつつも立ち上がろうとするグレイスと、子どもたちの姿が描かれたお話です。

日本で言ったら児童養護施設のような施設でしょうか。これ、かなり詳細な取材をもとに製作された映画だそうで、子ども一人ひとりが抱える問題が、非常に鮮明さを帯びて胸に迫って来る。「何があっても生きていて悪いことなんてない」、そんなメッセージを痛切に感じます。

子どもたちをケアする立場であったグレイスが、彼らとの交流の中で徐々に自分と向き合い、恋人との結婚と出産を決意する。シンプルなストーリーですが、ずっしりと響く人間賛歌であるように思えます。

 

 

ずいぶん長くなってしまったけど、これで以上!話題になったけど観ていない作品も結構あるので、2014年分だけもまだまだ開拓の余地はありそうである。

2015年はどんな素敵な作品と出会えるのか、いまから楽しみです。