カルチャー心酔雑記

モラトリアムが延長戦に突入した大学生が、カルチャーとイチャイチャした記録です。

大森靖子『ミッドナイト清純異性交遊』を読み解いてみた


大森靖子『ミッドナイト清純異性交遊』Music Video - YouTube

 

大森靖子『ミッドナイト清純異性交遊』。

このMV、初めて全部をちゃんと観たんですけど、なにこれすばらしい。

 

歌っている大森靖子さんは、ハロプロオタ、中でもモーニング娘。道重さゆみのガチオタとして知られている方で、この曲はその道重さゆみをリスペクトして作ったのだそう。

私自身は、特別道重さんのファンというわけではないけれど、同じ女性アイドル好きとしてものすごく共感できる部分がたくさんあったので、ちょっとこの曲について考えてみた。

 

まずはミュージックビデオ。これが素晴らしい女性アイドル賛歌、女の子賛歌だと思う。

 

出演しているのは、大森さんご本人のほかに、女優の橋本愛ちゃんと蒼波純ちゃん。

橋本愛ちゃんは、『あまちゃん』での強烈にアイドルに憧れる地方の女の子ユイの熱演が記憶に新しいですね。

もうひとりの蒼波純ちゃんは、ミスiD2014のグランプリを獲得したシンデレラガール。今後の活躍が期待される若手の1人だと思います。(まだ12歳なんだね…びっくりした…)

と、どちらも「アイドル」という存在に非常に縁の深い女性。

蒼波純ちゃんについては、ご本人がアイドルですが、「普通の女の子がオーディションを経て世間に見出される」というアイドルの本質とも言えるアマチュアリズムを地で行っている。実に王道な「見つけられ方」をしたアイドルだと思います。

そんな2人が、アイドル文化のひとつである自撮りらしき行動をしている場面があることも、見事な表象だなあと。

 

で、内容ですが、これがもう男子禁制。女性が表現する女性だけの世界。

冒頭の部屋のシーンで、ベランダに男の人が転がっている(排除されている)のが象徴的ですね。(ちなみになんで転がっているのかは、大森さんの『君と映画』という曲のMVを観るとわかる。)

終盤、ジャングルジムの下で2人が見つめ合うシーン、手をつないで寝ころんだ橋本愛ちゃんに蒼波純ちゃんが手を伸ばすシーンとか、もう、ものすごく神聖。覗いちゃいけないものを覗き見している気分になる。

私自身、女の子に対して、「見たい、触れたいけど、見ちゃいけない、触れちゃいけないんだろうなって思うタブーなもの」という認識を抱いている部分があるので、このラストシーンは、観るたびに毎回ドキドキしてしまう。

おそらく大森さんは、神聖な存在であるアイドルである道重さゆみに対して、最大限の愛とリスペクトを込めてこの曲を書いたのだと思うと、この映像はこれ以上ないくらいにマッチしていると思う。同じ女性アイドル好きとして、作り手に心から敬意を払いたくなる。

 

次に歌詞について考えてみる。

おそらく、道重さゆみモーニング娘。にまつわるモチーフが随所にちりばめられるのだと思うのだけど、恥ずかしながらハロプロにそれほど造詣が深くないので、ドルオタとして共感できる部分を中心に言及してみようと思う。

おそらく、大森さん自身と道重さゆみの関係性が軸にある歌詞だと思われるので、それを前提にしています。

 

アンダーグラウンドから君の指まで

遠くはないのさiphoneのあかりをのこして

ワンルームファンタジー

何を食べたとか 街の匂いとか 全部教えて

  アンダーグラウンド=大森さん、君の指=道重さゆみって解釈でよいのでしょうか。大森さんの活動拠点は高円寺だったそうなので、確かにアンダーグラウンド感はあるかも…。ちなみにMVに登場するライブハウスもおそらく高円寺にあるものみたいです。

iphoneのあかりをのこしてワンルームファンタジー」はまさにMVにある光景なのかなと思う。(この、部屋の電気を消して、好きなアイドルの映像や画像を観るってのは、私も結構やる。)

「何を食べたとか 街の匂いとか 全部教えて」はおそらくブログやSNSで発信される道重さんの情報を指している。アイドルのブログとかって、ファンにとっては情報の宝庫であると同時に、「変身前」の彼女たちの様子がわかる貴重な場なんだよね。

 

ときわ公園 空飛ぶ自転車

14才でみつけた桃色のうさぎ

ブルーな気持ちを食べて 歪にかわいい

プラスチックのステージで君はおどりだす

「ときわ公園 空飛ぶ自転車」については、おそらくこれらのワードにまつわる何かしらのエピソードが道重さんにはあるのでしょう。

次、「14才でみつけた桃色のうさぎ」ってフレーズ。14才は道重さゆみデビュー時の年齢。桃色は彼女のイメージカラー。浅学ゆえに詳しくは知らないのだけど、「うさぎ」って確か道重さんを表すモチーフのひとつだって聞いたことある。つまりここは、普通の女の子だった彼女が、「イメージカラーは桃色でうさぎを表象するアイドル・道重さゆみと出会ったのは14才のとき」ってことかと思われる。

 

今夜しか見れない流星群

キャラじゃないなんて甘えてるから逃してばっか

ここは…普遍的ですね。うん…アイドルってそういう存在だよ…。「今しか見れない期間限定の存在」ってことか、もしくはライブ等の一瞬一瞬を指して「この表情、この所作は、今この瞬間にしかこの場に存在しない、二度と見れないもの」ってことか。どちらにしろ、「今夜しか見れない流星群」って表現は実に秀逸だと思う。

 

春を殺して夢はひかっている

嘘でもいい 嫌いでもいい 私をみつけて

ストロー噛んでバスストップから睨んだ

狂ってるのは君のほう ミッドナイト清純異性交遊

「春を殺して夢はひかっている」。これも比較的普遍性のある表現だなあと。前述の通り道重さんのデビューは14才のとき。普通の女の子がするような恋愛も友達付き合いも十分にせず、青春時代をほぼアイドル活動に費やしてきたわけです。でもその青春を犠牲にしたおかげで道重さゆみという夢はひかり続けている…ってことかと。

このサビのフレーズ、好きなアイドルがまだ10代とかだったら聞いただけで泣いちゃいそう…

「嘘でもいい 嫌いでもいい 私をみつけて」は、毒舌キャラでぶりっこ、「自分はいくら嫌われようとも構わないから、今のモーニング娘。を知ってほしい」という旨の発言をしている道重さんが主語なのかなあと一見思われます。だけど、歌詞全体を踏まえると主語は大森さんなのかなあと個人的には思っている。「好かれなくてもいいから、自分の存在を知ってほしい!」という憧れの存在に対する欲求みたいな。

次の「ストロー噛んでバスストップから睨んだ」も、なんとなくだけど大森さん主語な気がする。

 

君の気持ちはSNS ときに顔文字なくてSOS

めんどくさい夢 しょうがないファックユー

アイコンちがうかお 油性でかいちゃったから消えないI Love U

発売延期でぼくだけのキラーチューン

 道重さんは、ネガティブになるとブログやSNSで顔文字を使わなくなるタイプなんだなあと伝わってくるのが最初のフレーズ。(余談ですが、私が最も好きなアイドルである最上もがはそもそも顔文字を使わないので、この感覚はすごく新鮮。)

「アイコンちがうかお」も、この手のメディアに関連したことを言っているのかなと思う。

「発売延期でぼくだけのキラーチューン」も、おそらくこれにまつわるエピソード(何かしらのCDが発売延期になったことがある等)があるのだと思います。

 

アンダーグラウンドから 君の指まで 遠くはないのさ

iphoneのあかりをのこしてワンルームファンタジー

黒髪少女で妄想通りさ 君だけがアイドル

「黒髪少女で妄想通りさ 君だけがアイドル」 はそのままの意味だなと。黒髪も道重さんを象徴するモチーフのひとつ。一度も染めたことのないバージンヘアーだそうですね。

 

いつまでも大きい瞳で大丈夫な日の私だけをみつめてよ

 ここ、個人的には一番好きな個所。意思が強くて真っ黒な大きい瞳でこちらを見つめる道重さゆみが、まさに脳裏に浮かんでくるかのよう。

「大きな」ではなく「大きい」としたのは、メロディーラインに合わせてかなと思ったのですが、どうやら『大きい瞳』って曲があるんですね。

 

派手なグッバイ けちらしたいストーリー

不評なエンディングでも好きだから守ってあげるよ

ストロー噛んでバスストップから睨んだ 世界だって君にあげる

ミッドナイト清純異性交遊

 「けちらしたいストーリー」と「不評なエンディングでも好きだから守ってあげるよ」は似たような意味合いのような気がする。前述の通り、道重さゆみは毒舌でぶりっこなキャラとして数々のバラエティに出演していた経験があり、数年前まで「女が嫌いな女ランキング」では上位の常連だったくらいの人。そのような状況を見て、「外野がはやし立てる勝手なイメージなんかけちらしてしまえばいい。何があろうと自分は好きだから守りたいと思う。」って感じかな。

「世界だって君にあげる」も好きっていう気持ちゆえだよね。

 

最後にタイトルの「ミッドナイト清純異性交遊」について。まず目を引くのが「異性交遊」ってワードなんだけど、アイドルである道重さゆみは原則恋愛禁止のはず。だとすると、公に「交遊」できる一番の異性は、おそらくファンだと思われる。と仮定してさらに考えると、「ミッドナイト」とついているので、この交遊の場は日中~夜に行われるライブや握手会ではなさそう。それ以外にファンと接触できる機会を考えると、おそらくファンレターやブログのコメントに目を通したり、という行為でしょうか。「真夜中にひっそりとファンの想いを眺める道重さゆみ」という図、そりゃ「清純」だよ…

 

と、まあ、わかる範囲で勝手に解釈しましたが、好きなアイドルを一方的に賛美するのではなく、「自分との関係に引き寄せて歌っている」のがこの曲の素敵なところだなあと思います。なんというか、そっちのが好きっていう気持ちが際立つ気がするんだな。